ゲームを上手くなりたい初心者がいたとして、その人に上達するためのアドバイスをするとしたらどのようなものが適切だろうか。おそらくもっとも”美しい”回答は次のようなものになるだろう。
「とにかく反復練習を積め。日々の努力と練習を続けることが何より重要。やればやるほど必ず上手くなっていく。上達方法に近道はない。世の上級プレイヤーたちもそうやってコツコツ地道に努力を重ねて腕を磨いてきたんだ」
まあ間違っちゃいない。間違っちゃいないんだが…初心者に対するアドバイスとしては個人的にはこの”練習論”にはちょっと異論がある。何故なら初心者がゲームを上手くプレイできない時、そのゲームを難しいと感じる時は、そもそもシステムを理解していなかったり遊び方を間違えている場合が非常に多いからだ。どんなゲームにも必ずルールがあって、そしてルールがあるならばそれに対するセオリー、定石というものもまた必ず存在する。まずはそのセオリーを見つけ出すことこそが初心者が次のステップに進むために最も重要なことだと私は考えている。
初心者が陥りやすい状況のひとつに制作者の意図が正しく伝わっていないというものがある。例えば接近戦では強いが遠距離攻撃に弱い敵がいたとして、そいつ相手にボタン連打しながら突っ込んでいったら何もできずにボコられて死んだとする。するとプレイヤーは「このゲームは難しい」と感じることだろう。しかしそれはゲームが難しいわけでもプレイヤーがヘタなわけでもない、ただ単に戦い方を間違えているというだけなのだ。そこを理解せずにただやみくもにボタン連打で倒す練習を繰り返すのは上達の方法としてどうだろうか。まあいつかは倒せるかもしれないが、それでテクニックが身につくとはあまり思えない。
または別の例としてそのゲームにおける”ハズレ”を引いてしまっているということも少なくない。昨今のゲームは非常に他種多様な武器やスキル、キャラクターが存在し、あまりにも多くの変数が複雑に絡み合って構成されている。ともすればそれらの強弱を均一にデザインするなどまず不可能なことで、どんな天才クリエイターが作ったとしてもそのゲーム内で特別に強いキャラや弱いキャラ、強いスキルや弱いスキルという格差はぜっっったいに生まれる。その結果としてたまたま弱いスキルなどを選んでしまったプレイヤーが意図せずして高難易度での攻略を余儀なくされ、「このゲームは難しい」という感想を持つに至るわけだ。何か特別なこだわりや縛りプレイでもない限り、あえて弱いとされるものを使い続ける意味はないだろう。
実のところこれは上級者が上級者たり得る理由でもあるんじゃないかと思う。よくゲームが上手いとか強いとか言われている人たちはプレイスキルが高いという以上に、こうしたゲームデザインに対する嗅覚がとても優れていると感じる。初めて触るゲームであっても少しプレイしただけですぐさま性能を分析して「この武器は弱いな」とか「こういう状況ではこのスキルが有効だな」という判断を的確に下しどんどん行動を最適化していくことができる。だからこそ反復練習の効果もそれに伴って大きくなるのだろう。
なので私が考える初心者が上達するために必要なことは、まずじっくり画面を見ることだ。コントローラーを置いて、マニュアルを読んで、NPCの話をしっかり聞いて、そのゲームを”理解”することだ。そのゲームが何をするゲームなのか、また何をしてはいけないゲームなのか、どのキャラクターどの武器を使えば有利にゲームを進めることができるのか、おおまかな攻略の方針を見定めるのである。そうすれば上達も早くなるし、ゲームの基本的な構造を理解していればそこから応用もできるようになる。反復練習に入るのはそのあとでいい。